危機管理広報

プロの目⑨ 要注意! 記者会見で多用しがちな言葉

エイレックスでは、数多くの緊急事態を想定したメディアトレーニングを実施しています。現実に起こりうる事件・事故・不祥事のシナリオを作成し、そのシナリオにもとづき、模擬記者会見や電話対応といったロールプレイをします。
 参加者からは、「緊急時の広報対応の重要性を再認識できた」、「メディアが何に期待して質問するのか学ぶことができた」といった感想をいただきますが、中でも多いのが「事前準備の大切さを痛感した」との声です。
 今回は、なぜ事前準備が大切になるのか、新聞社で事件事故を取材してきた私の経験から、記者会見で紛糾するケースをもとに説明します。

荒れる会見でよくみられるのが、「調査中」、「コメントできない」との回答を連発してしまう会見です。事件や事故、不祥事が起きた際に集まる情報には未確定なものが多く、会見では確認が取れている事実のみを説明することが基本です。憶測や推測で質問に答えたりすると、後に回答と異なる事実が明らかとなった場合に嘘をついたと批判を受ける可能性もあります。
 そのため、原因など調査に時間を要する質問に対しては、「調査中のため現時点ではコメントできない」と明言を避けるのは当然の対応になります。

ところが記者は、「会見を開いたからには、今までわからなかったものが明らかにされる」と期待値を高めて会見に参加します。そこで「調査中」、「コメントできない」といった回答に終始すると、記者は期待した情報が得られず、フラストレーションをためます。すぐに調べればわかりそうなことも公表してもらえないと、「不都合なことを隠そうとしているのではないか」と不信感を抱き、より追及を強めます。あまりに「調査中」を繰り返すと、記者にはそれを常套句に説明を拒否しているようにみえる、というジレンマが生じるのです。

トレーニングをしていると、模擬記者会見前の対策会議で「ここは調査中で乗り切ろう」と参加者が話しているのを耳にすることがよくあります。そのような場合、ほとんど例外なく模擬会見は荒れてしまいます。
 話せないことを話さないことはもちろん重要です。しかし思考停止して「調査中」を繰り返すと会見の紛糾につながってしまいます。本当に「調査中」としか回答できないのか、記者からどのように追及されるのか、事前にしっかりと想定し準備しておくことが、会見の成功のために不可欠です。

2023/2/15