危機管理広報

プロの目⑳「紅麹」問題に見る、不祥事対応の陥りがちな2つのワナ

最初の1月11日の医師からの健康被害報告から4カ月が経過し、3月22日の最初の公表から間もなく2カ月たとうとしているが、小林製薬の紅麹問題はいまだ原因物質が特定できていない(5月15日現在)。

自主回収の決定まで2カ月と10日も要したことについて、小林章浩社長は3月22日の最初の会見で、事実確認と原因究明に努力をしてもらったが、結果として時間がかかってしまい、回収判断が遅れたと述べていた。

原因物質の特定を最優先に取り組み、その特定を以て自主回収・公表を判断しようとしていた、との説明だが、そのロジックに従っていたとすると、5月半ばになっても、まだ自主回収・公表に踏み切れていないことになる。

記者会見のマイク

小林製薬は一体どこで間違えたのだろうか。

3月下旬に開かれた2回の会見からは、同社が、他企業にもしばしばありがちな2つのワナに陥っていたことが浮かび上がる。その会見の一部をハイライトしてみよう。

【3月22日の1回目会見】
Q:医師からの報告から公表まで2カ月程度ラグがある。この間の経営判断、自主回収に至るまでの過程を振り返っての所感は?
「2月1日の(複数の)医師からの連絡を受けて、私は(その内容を)2月6日に聞いているが、その時点でこの案件について、何らかの形で回収になるだろうと、そういう覚悟を持った。そこから早く停めないといけない、早くロットを限定しないといけない、という気持ちで取り組み、事実確認、原因究明にかなり努力をしてもらったが、結果として時間がかかってしまった。判断が遅かったと言われれば、その通りと感じている」

【3月29日の2回目会見】
Q:2月中旬には経営執行会議が開かれ、その場で経緯が報告され、経営陣はわかっていた。にもかかわらず1カ月以上後の回収としたのは、役員の責任と考えるが、どう認識しているか?
「2月の途中から(自主回収・公表まで)1カ月以上かかっていることについて(のご質問だが)、その時点で原因物質が何なのか、そもそも紅麹が原因となっているのかどうかはわかっていなかった。ただ紅麹コレステヘルプを使った方で疾患が出たという情報だった。ですので原因物質の特定、何か可能性がないのかをとにかく急ぎ分析に取り組んでもらった。情報が徐々に出てくるなかで、当社のガイドライン、また外部の弁護士と相談しながら回収の判断をしていた。2月時点では、まだ情報が不十分で、回収の判断とはいたらなかった」

Q:つまり、任務の懈怠ではないと認識しているのか?
「そうですね。私どもの社内のルール、ガイドラインに基づいて、また外部のアドバイスも聞きながら判断していた」

Q:つまり、できうる最善で最速の対応を取ったと認識しているのか?
「そうですね。それが結果として遅かったと言われているので、そのことは真摯に受け止めるが、我々としては力を注いて急ぎ取り組んでいたので、そこまでのコメントとさせていただきます」
(以上、2つの会見の一部書き起こし)

上記、小林社長発言の骨子は、
▼原因究明(事実確認、原因物質の特定)を自分たちは急いだが、回収・公表を判断できるだけ十分な情報を得られるまでには時間を要した。

▼社内のガイドラインに基づき、また、外部の弁護士の助言に従って判断した結果であり、任務の怠慢はない。

の2点である。

ここから垣間見える第一のワナは、原因究明を最優先課題とし、それ以外が目に入らなくなる「原因究明マイオピア(近視眼)」である。

原因物質は4カ月経過した5月中旬の今に至っても、まだ特定できていない。「意図しない物質」の混入の確認でも、2カ月経過後の3月16日である。成分特定・原因究明を最優先課題に掲げているだけでは、数カ月間は回収に踏み切れないのだ。

要するに「原因究明の進展度合いによって回収・公表を判断する」との判断基準とは異なる、別の基準(開示への動機)がなくてはならない、ということになる。危機管理広報では、それは「ユーザー、消費者、パブリックに対する注意喚起の視点」である。残念ながら、小林社長の発言からは、注意喚起のために早めに情報開示すべき、との視点は欠落しているように聞こえた。

第二のワナは、「コンプライアンス・マイオピア」である。コンプライアンスが重要なのは論をまたないだが、「社内ルールと法律に従っているのだから、何ら瑕疵・不備・欠陥はないでしょう」と思考停止してしまうと、それはまた、近視眼である。

2回目の会見で小林社長は「社内のガイドラインに基づいて判断した、外部弁護士の助言に従った」と強調していたが、コンプライアンスを楯に守ろうとしていたモノは、「法令に違反していない会社と自分たち経営者」であって、ユーザーの健康や安全ではなかった。

もしユーザーの健康・安全を守ろうとする意識があれば、社内ガイドラインや外部弁護士の助言に安住することなく、一刻も早い注意喚起に動いたはずである。その意識があれば、3月末の2回目会見の時点で、2月中の同社のアクションを振り返って、たとえば、

「2月当時は、社内のガイドラインと外部弁護士の助言に従って、原因物質の特定を急いだが、3月末の今から振り返ると、ユーザーの健康や安全を最優先に意識して注意喚起する姿勢が足りなかった、と反省している」

といった反省の弁が聞けたはずだ。しかし実際には、小林社長の口から発せられた思いは、意訳すると、「自分たちは法令を順守しており、一連の対応に瑕疵・不備はない」というものだった。

会見に出席したメディアは、当然、小林製薬の社内ガイドラインの正当性を検証し始めた。たとえば4月4日付産経新聞WESTは、ファンケルのガイドラインは「製品の瑕疵(欠陥)が不明な場合でも、重篤な症状が拡大する恐れがあると判断した時点で自主回収を判断する」、江崎グリコの場合は「因果関係の確定に時間を要する場合も、健康被害の恐れがあれば回収する」となっていると紹介。小林製薬の場合、「ガイドラインが因果関係の解明を重視するあまり、早期の公表や回収に踏み切れなかった」と指摘した。

× × ×

同社は4月26日、臨時取締役会を開き、紅麹関連製品をめぐる「当社による一連の対応の適切性を事後的に調査・検証する」と決議した。最初の3月22日会見当日まで事実を知らされていなかった社外取締役4名が主導して、「対応の適切性を事後的に調査・検証」するという。

自分たちはどこで間違えたのか。どう対応すべきだったのか──。小林製薬自身の手による調査・検証結果は、多くの企業にとって貴重な教訓をもたらしてくれるものと期待したい。

※次回のコラムは7月2日(金)更新予定です。