危機管理広報

プロの目⑥ 学校法人の不祥事の3類型、その傾向と対策 <後編>

― 2022年「熊本・秀岳館高校サッカー部」の不祥事事例からの教訓、学校法人への提言 ―

<前編>からの続き

3.秀岳館高校サッカー部 コーチによる暴行動画拡散問題(2022年4月)

<問題の経緯>
4月20日、サッカーや野球の強豪校である秀岳館高校(熊本・八代市)において、サッカー部のコーチが部員に暴行する動画が投稿され、SNS上で拡散しました。すぐに地元紙やTVのワイドショーでも報道され騒ぎになっていたところ、21日に同校サッカー部公式Twitterに部員11名が実名で顔出しをして「コーチを馬鹿にした自分たちが悪い。感情的になって投稿してしまった」「暴力が日常茶飯事だとあったがそれは違う」などと、当該暴行動画について謝罪するという動画が投稿されました。
 そして25日になると、この動画はサッカー部のA監督が自身の保身のために指示した「やらせ」動画であったことが発覚。A監督が、暴行動画を拡散させた部員を加害者扱いし、強い口調で責めている音声動画がSNSに投稿されたのです。
 A監督は自身もサッカーの強豪高校・大学で活躍、25歳からサッカー強豪高校の監督を務め、秀岳館をはじめとする指導高を高校選手権に出場させるなどの実績を残していましたが、サッカー部のコーチによる暴力動画が社会に明るみになった時、保身に走り「やってはいけないこと」をしてしまいました。形を変えた隠ぺい工作です。それもしっかり録音され、社会に明るみに出ました。
 4月26日、学校側が音声は監督本人のもの、不適切発言だったと謝罪。5月5日には理事長兼校長やA監督らが登壇する記者会見を開催し、学校としての謝罪および監督しての釈明を行う事態となりました。しかし、監督の釈明にマスコミをはじめとする社会が納得するはずもなく、5月中にサッカー部コーチは懲戒免職。当該監督は辞任(退職届が受理)する事態となりました。その後の報道を見る限り、A監督の指導法は体罰を容認するようなものだったと思わざるを得ず、スポーツ強豪校としての秀岳館にとっては大きなイメージダウンとなり、来年度の学生募集に大きな影響を与える可能性のある事案となりました。

<この事例からの教訓>
1) 初期対応の失敗で危機が拡大
  起こしたこともよくないが、起こした後の対応(=隠ぺい工作)が悪手。 バレるとまずいウソに限ってバレる。
2) 強豪運動部のリスクに対し、あまりに低い学校側の危機意識
  監督やコーチが日常的に体罰:ハラスメント教育以前の問題 他学・他校での類似事例:数多くあるにも関わらず自分事化していない
3) 会見に「不祥事の当事者を登壇させる」か否かは、メリット、デメリットを考えて判断する
  今回の場合はA監督が登壇。

4.不祥事の3分類とそれぞれの危機に対する学校法人への提言(傾向と対策)

1)強豪クラブは古い習慣や体質もあり、危機を生みやすい
代表例としては「秀岳館高サッカー部、コーチによる暴行」や「姫路女学院高校ソフトボール部体罰問題が挙げられます。
 学校法人は、危機意識を高く持ち、クラブでおきるヒヤリ、ハット(リスク)を見逃さないようにしたいものです。万一、コンプライアンス違反が起きた時には、関係者に対し一罰百戒の厳しい処分を科すことで抑止効果が高まります。

2)「巻き込まれ型」の危機は増加傾向にある
学生や教職員が事故・事件にいつ巻き込まれるかわかりません。背景にはスマホの普及もあり内部告発が出やすいことがあります。
 代表例な事例としては2016年3月の「千葉大学学生による未成年誘拐事件」2021年8月の「静岡大学生が通行人に硫酸かけ逮捕、大学が謝罪」があり、2022年の事例としては「同志社大アメフト部部員ら4名が準強制性交等の疑いで逮捕」「大妻女子大の教員が学生にわいせつで逮捕」「仙台育英高・空手道部で9人飲酒(顧問が代金を支払い保護者が購入)問題」が挙げられます。
 学校法人は、平時から「適切なコメント」を出せる危機管理広報体制の構築が望まれます。

3)学校法人のビジネスモデルやガバナンス(組織統治)に問題
近年多くの学校が、生徒集めに苦労しています。また多くの大学で、学長や理事会の権限がより強化される一方、教授会の権限が縮小されています。一方、多くはないが、大学を私物化するトップが逮捕される事態も起きています。理事会やトップの権限が強まったのは、政府が進める学校法人のガバナンス改革によるところもありますが、社会の要請でもあります。
 このように学校法人のビジネスモデルは変革期を迎えており、またガバナンス改革が必要な学校法人も多いと思われますが、改革には内部の反対がつきもので、改革に反対する教授会や職員も多いと聞きます。この2つの改革が続く限り、内部告発や不祥事が社会に発覚しやすいのです。
 代表例としては、2017年4月の「城西大学、前理事長の不正支出発覚問題」や2021年9月の「日本大学、理事・理事長らによる背任・脱税事件」などがあり、2022年の事例としては、「京都・洛星中高運営のヴィアトール学園で事務局長が5200万円着服」や「尚絅学院、理事が3億円着服」が挙げられます。
 学校法人は、文科省が主導する「大学のガバナンス改革の推進について(2014年2月~)」や「私立学校ガバナンス改革に関する対応方針(2021年12月~)」を参考に、自ら(積極的に)ガバナンス改革に取り組むべきでしょう。

(2022/11/18)